気になる石橋美術館の「ちょっと気になる絵のまわり」

久しぶりにゆったり穏やかで愉しい時間を過ごせました。

 

久留米の石橋美術館。

 

期待を裏切らない充実ぶりでした。

 

もともと額装にとても興味がありましたが、斜め上をいく?愉しさでしたよ。

コレクション展示ちょっと気になる 絵のまわり」。2015年10月18日(日)まで開催中。

 

なにが、いつもの展覧会と違うかというと、

絵を観るときに必ず視界に入る額装について、茶目っ気たっぷりに解説しています。

 

解説は手帳サイズや絵と同じくらいのサイズなどいろいろで、

絵の横にト書きのように掛けてありました。

 

 

これが漫談のように軽妙な語り口で、ノリがいい。

 

大きな美術館の音声ガイドのようなタレントの声が聞こえてきそうでした。

もちろん音声ガイドもあったのですが、なくても充分聞こえるようなという意味で。

 

しかも、たとえばNHK「サラメシ」の中井貴一さんのナレーションのように。

 

あの、ぜんぜん堅苦しくなくて、クスッと笑いのツボを押さえている感じです。

 

 

とことん研究された専門的な内容を噛み砕いて、

夏休みにきた子どもたちが笑って楽しめるよう、

どんな表現ならわかりやすいのかをさらに徹底したのだろうなと。

 

その研究の成果は、ところどころの絵の横についた

漫画の吹き出しのようなイラストに表れていました。

 

それは、子ども用クイズのサイン。

受付で渡された水色のノートに、鉛筆で回答を書き込んでいくスタイルです。

 

私も参加しました。ちょっと恥ずかしくて記念品はもらわなかったけど。

もらっとけばよかったなぁ、ほんとに記念で。

 

 

このコレクション展示は、大好きなマティスが最初の部屋から出迎えてくれました。

 

そこから、いきなり子ども用クイズも始まるわけです。

 

これが、いつも以上に絵を見つめる時間となって、なかなか愉しい♪ 

 

岸田劉生の麗子像や梅原龍三郎のノートルダムではなくて、

藤田嗣治の妙になまっちろい室内絵をクイズの問題にしてたり。

 

ピサロやモネなど印象派も外してません。

 

郷土の画家・青木繁や坂本繁二郎の額装に傾けた情熱も、

まるでリフォームしたビフォー・アフターのように見せてくれます。

 

別館には、日本画の掛け軸の作り方見せ方の変遷をさらっと楽しく。

 

豊臣秀吉のお手紙を掛け軸にしたものが、

実は着物の端切れで作られていたことは知りませんでした。

あのキンキラキンが好きだった太閤さん発案なのかな?とか

案外丸っこい読みやすい字を書くのねなど興味は尽きず。

 

長期休館に入ったブリヂストン美術館から借用しているものもあります。

個人的にはもう一度ピカソを見たかったなぁと少し思いました。

 

一番ビックリしたのは、最後の展示室に自分の絵の師匠(と呼んでいる方)の、師匠の絵が、どーんと目に飛び込んできたとき。

 

明るくて清冽な空気が空間を支配する絵です。

ビックリすると同時に、20年近く一気にタイムスリップしたようでした。

 

御大の絵は変わらず静か。

大きな絵の前のソファに座り、少し深呼吸して、しばらく絵の世界に陶酔。

 

穏やかな久留米の空気に和み、励まされて名残惜しく後にしました。

 


<長いおまけ>

久留米には、たぶんほぼ40年ぶり。

 

季節ははっきりしませんが、緑濃く、穏やかな佇まいの美術館だったことだけ、おぼろげに覚えていました。

 

秋ではなかったようです。

 こんな紅葉は見覚えがないと、庭園そばの美術館のカフェで思いました。

一幅の絵のよう。

 

美しい紅葉シーズンには少し早すぎましたが、明るく透ける紅葉の葉っぱは、清々しいほどでした。


今回、もうちょっとスィーツやメニューに一工夫あればいいのになと思ったのも事実。


美術館のカフェですから。


そんな、昼前に着き、絵を観る前に腹ごしらえをする不届き者の目の前。

 

ガラス越しに着物姿のモデルさんの撮影が始まりました。

 

成人式の前撮りかしら?

本館の休憩コーナーでは、ちょっとスケールは違いますが、箱根美術館の休憩室を思い出しました。

 

ここ久留米では、庭の池を見下ろすようなコンパクトな茶室の感じ。

 

展覧会途中、鑑賞で少し疲れた目を癒したり肩の力を抜いていいよとばかりに休憩コーナーが誂えてあります。

 この日はアンニュイな空模様でした。

 

予想以上にのんびりしてたんだなと思ったのは、博多に戻ってから。

 

せわしない駅構内のアナウンスを聞くと、久留米ののどかさが、おでんのように沁みてきました。

ご存知の方も多いと思いますが、この石橋美術館の運営から石橋財団が2016年9月に運営から撤退し、全収蔵品が東京のブリジストン美術館に移管されることが、この夏報道されたとき、まさかと思いました。

>>久留米・石橋美術館撤退問題

 

郷土愛を貫く企業のシンボルと私がいうのも変ですが、地元ではそんな共通認識があると思っていた伝統が失われるのかという思いです。

かくいう私も長年足を運んでなかったのですから文句を言えたものではないのですが。

 

父に連れられ、初めて訪れたのは小学生の頃。

ピカソの青の時代のピエロなどに見惚れたのを覚えています。

落書きのような抽象画より、はるかに素敵だと子ども心に思いました。 

温かなぬくもりを感じさせる簡潔な展覧会は、美術館が長年培ってきた粋な郷土愛がなせる技と思ったのですが。


東京にばかり名画が集まっても、地方から簡単に見に行けやしないじゃないですか。ねぇ。